九州エネルギー問題懇話会トップページ講師コラム「エネルギーの明日」Vol.6 医療技術に活用される放射線の可能性(3/4)

 
  • 印刷

Vol.6 医療技術に活用される放射線の可能性

1 / 2 / 3 / 4

放射線による検査で病気の早期発見を

最も放射線を活用しているのが医療分野です。一般にはX線を利用したX線撮影、体を輪切りにして撮影するCT撮影などが知られていて、体の異常を調べる画像診断検査に使われています。また私の専門分野である核医学検査では、SPECT(スペクト)撮影やPET(ペット)撮影と呼ばれる検査方法があります。これはガン細胞にブドウ糖が集まりやすいという性質を利用し、ブドウ糖に放射性物質をくっつけた検査薬を体内に注入し、検査薬が集まる部分の放射線を目印として患部を検知する方法です(図6)

「放射性の検査薬を体内に注入する」と聞くとびっくりするかもしれませんが、注入する量は少量で、放射線被ばくの量もコントロールされています。PET検査での被ばく量は、およそ2.4ミリシーベルトと報告されています。この方法は微量な検査薬でもガンを検出できるという大きなメリットがあり、現在では2〜3ミリのガンも見つけられるようになっています。ガンは5ミリ以下であれば転移のリスクが低い早期の状態なので、ガンの早期発見ができるということは治療の成否や病後の状態に大きく影響します。

放射線診断の機器は日々発達をとげており、より少ない放射線量で細かいところまで診断ができるようになってきています。今後も短時間での撮影、より精細な画像が得られる機器へと日進月歩で進化していくでしょう。

狙った組織だけを破壊する放射線治療

医療分野において、もうひとつ放射線が大きく貢献しているのが放射線治療です。現在、日本各地に陽子線や重粒子線を使ったガン治療の施設ができています。放射線には分子を破壊する特性があり、この特性を利用して行われるのが放射線治療です。放射線をコントロールし、患部に集中的に当てることによって他の組織を傷つけず、ガン組織のみを破壊します(図7)

ガンにはさまざまな治療法がありますが、その代表例の外科手術は体に負担がかかり、体力が必要です。誰もが安心して受けられる治療法ではなく、手術後の回復が思わしくないケースもあります。その点、放射線治療は体に負担がかからず、患部周辺の組織も温存できます。海外ではガン治療の半分は放射線治療という国もあるほどです。

機器はまだまだ発達段階にありますが、この10年でも治療の正確性は格段に進歩しました。日本は世界でも有数の放射線治療の進んだ国になったと思います。現状では陽子線治療や重粒子線治療は保険の適用外のため、高額の医療費がかかりますが、これからはより安全で安価な放射線治療が望まれます。

 
ページの先頭へ戻る