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Vol.8 原子力の安全性と人材育成

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時間がかかる原子力の人材育成

私は原子力関連の研究開発機関から大学へ転職しましたが、その理由のひとつが人材を育成したいという気持ちを持っていたからです。その時から若い人を育てることの大切さを痛感していましたし、原子力に関する人材育成を一生懸命やらなければならないと考えていました。

2000年代初頭に欧州や米国で原子力ルネサンスと呼ばれる原子力を見直す機運が高まり、日本でも地球温暖化対策や安定したエネルギー源として原子力に対する期待が高まりました。ところが、福島の事故の影響もあって、日本では当面は人材の確保が容易ではなくなる状況になるでしょう。しかしながら、これからも原子力が必要であることには変わりありませんし、それを担っていく若い人材を育成しなければなりません。何よりも人材育成には長い時間がかかりますから、これまで通り継続して取組むべき課題です。

学生たちには「いろいろなことを勉強しなさい」と教えています。総合工学である原子力は、ひとつの分野だけを勉強していてもダメです。全体の仕組みを理解し、いろいろな分野の知識を身につけておく必要があります。さまざまな視点から見ることで新しい発想やアイデアも生まれてきます。ぜひ、そうした技術者、研究者になってほしいと思います。

安全性を大幅に向上した次世代の原子炉

私は、次世代の原子炉についても研究を行っています。次世代炉にもいろいろあり、それぞれに一長一短があります。当然ながら、経済性だけを追い求めるのではなく、安全性も高めないといけません。

現在の原子炉の安全対策には、既存の施設に対して後付けされたものが多くあります。一方、これから登場する次世代原子炉では、予め最新の安全技術が織り込まれたものになります。例えばパッシブセーフティ(受動的安全)という考え方があります。緊急時に外部からの動力や操作を必要とせず、自然に起こる物理的現象を利用して原子炉を停止・冷却する仕組みのことです。一例として、原子炉の停止には制御棒を炉心に差し込む必要がありますが、この制御棒を高温になると磁力がなくなるタイプの電磁石に付けておけば、何か異常が起こって炉内の温度が上がり過ぎると自然に落下し原子炉は停止します。このような安全性を大幅に向上するための技術が、今後開発される原子炉には備わってきます。

制御棒のしくみ

 
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