九州エネルギー問題懇話会トップページ講師コラム「エネルギーの明日」Vol.11 原子力の歩みとエネルギー(3/4)
私は九州大学の応用原子核工学科で学び、大学院修士課程を卒業して日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)に入りました。28年間在籍して、2015年より九州大学で教えています。大学では原子力を専攻しても、卒業後はあまり関係のない分野に就職する学生もいた中で、一貫して原子力に、それも一つの原子炉に関わることができたのは幸運だと思っています。私が大学に入学したころは、原子力専攻を希望する学生は多かったように思いますが、福島事故以降、これから原子力を研究しようという学生が次第に減っています。さらに研究に必要な基礎的な分野を教えられる先生も減ってきています。基礎を学ばずして原子力の研究はできません。原子力技術はこれからも日本に必要な技術です。世界トップレベルの技術を維持・発展させていくためには人材育成に力を入れていく必要があり、これまでの私の経験や技術を少しでも伝えていきたいと考えています。
福島事故の後、地域へ出向いて放射線の話をする機会が度々ありました。皆さんと接していて感じたのは、科学技術に関する正しい知識を普及していくことの大切さです。
例えば放射線について、皆さんは福島事故で放出されたセシウムを問題視しています。ところが、実際の生活ではホウレンソウなどに含まれるカリウムが出す放射線の方がずっと影響が大きいのです。私たちはカリウムを食物として食べていますが、カリウムの放射線を気にする人はほとんどいません。こうした安全に対する知識、あるいは相場観というべきものを、皆さんにも持っていただく必要性を感じています。
そのためには我々のような専門家が、大学の中だけでなく、積極的に外へ出て、分かりやすく情報を発信していくことが重要だと考えています。
私が科学技術について話をするときに心がけているのは、歴史的背景や社会状況と重ねて話をすることです。歴史に学ぶことはとても重要です。エネルギーの話題では、オイルショックが起こった背景と日本が置かれた当時の状況や高度経済成長期のエネルギー需要の急激な伸びなどについてもお話しします。
私はエネルギー教育は理科教育だけではなく、社会科教育でもあると考えています。そうした視点で科学技術を語ることが大切だと思っています。