九州エネルギー問題懇話会トップページ講師コラム「エネルギーの明日」Vol.12 医療における放射線利用の重要性(2/4)

 
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Vol.12 医療における放射線利用の重要性

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「切らずにがんを治す」放射線治療

放射線は細胞のDNAを傷つけて、がんを引き起こすことがありますが、反対にがんの治療に役立てることもできます。がんの治療には、「外科療法」、「化学療法」などの治療法がありますが、今では放射線を活用した「放射線療法」は「体の負担が少ない」「機能を温存できる」治療法として、がん治療の大きな柱のひとつとなっています。その放射線療法は、大きく分けて「光子線」を利用する方法と「粒子線」を利用する方法があります。

「光子線」はX線やガンマ線などのように「波」のような性質を持つ特徴があります。放射線が当たる表面近くで最も放射線量が大きく作用し、内部へ進むほど影響が少なくなります。ガンマナイフによる定位放射線治療は、太陽光をレンズで集めるように、弱いガンマ線を一点に集めてがんを狙う治療法です。周囲の正常な組織に当たる線量を極力減らすことができます。

もう一方の「粒子線」は炭素原子や陽子などの「粒子」そのものを、狙ったがんへピンポイントでぶつけることで、他の細胞を傷つけずにがん細胞を破壊するものです。「粒子線」は体の表面近くでは放射線量が弱く、がんがある一定の深さにおいて急激に放射線量がピークになる特性を活かしたものです。エネルギー密度が大きく、照射回数を減らすことで、治療後の早期の社会復帰や生活の質の向上が期待できます。この性質を利用した先進医療が重粒子線治療や陽子線治療です。

また、免疫療法と放射線療法の2つを組み合わせた免疫放射線療法という手法も開発されています。放射線療法は特定の場所にあるがんを狙うことは得意ですが、白血病など全身をめぐるようながんには不向きです。そこで、放射性物質を含む抗体を体内に注入し、抗体ががん細胞にくっつくことで、放射線でがん細胞を攻撃する仕組みです。さらに最近の研究では、放射線治療を行うことで、患者の免疫効果が高まるという研究結果もあり(アブスコパル効果と言います)、免疫療法と併用することで、局所的にも全身的にも効果が望めます。

放射線療法では今後も技術革新により、患者の身体的負担が少なく、効果がより大きい治療法が開発されていくものと期待しています。

 
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