情報誌「TOMIC(とおみっく)」

46号 2012年10月発行(3/4)

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澤 昭裕氏が語る「いま、なにを議論すべきなのか?」-エネルギー政策と温暖化政策の再検討-

再生可能エネルギー固定価格買取制度、先行するドイツでは、制度の見直しも

既存電源の発電コストと再生可能エネルギー買取価格との比較

次に再生可能エネルギーの固定価格買取制度についてお話します。この制度は、コストが転嫁できるという仕組みが法律上決まっているので、発電会社の負担は小さく、その分、ユーザー側が負担しなければなりません。

ドイツやスペインが制度の見直しをせざるを得なくなっているのは、費用負担増に耐え切れなくなってきているからです。

今回の制度では、太陽光発電はすべて42円/kWh(H24年度買取価格)で20年間、買い取りが保障されています。

1ヵ月の電気料金でどのくらいの負担になるかについては、資源エネルギー庁の資料では、標準的な家庭で70〜100円程度とされていますが、ドイツでは、実際1,200円くらいまで負担が増えたため、全量の買い取りを止め、買い取り価格も下げてきています。日本はそれを周回遅れでやろうとしているわけです。

原子力発電の再稼働問題(火力発電への代替コストは年間約3兆円)

原子力発電の再稼働については、電力需給が足りるか足りないかで決まると思われてしまうことは非常に危険です。エネルギーの安全保障、供給の安定性、経済性の問題など原子力を動かすことのメリットは他にもあります。経済的影響で見てみますと、原子力を火力で代替した場合に、年間約3兆円の輸入燃料費が増えるとされています。GDPも下がり、国内の消費力が低くなってしますので、景気が悪くなってしまいます。

澤 昭裕氏

今は、まだ電気料金に転嫁されていませんが、仮にすべて転嫁されるとしたら、一般家庭のモデルケースで月1,000円、1万円以上払っているところでは、2,000円以上の値上げになります。また、中小企業の工場ですとモデルケース(25万kWh)で月75万円のアップになり、非常に大きな負担となります。

今は、電力会社がこれまで積み立ててきたある種の余裕金を充てて、その赤字を帳消しにするという形でしのいでいますが、来年も再稼働問題でもめたりすると、今後は電力会社がもたなくなってしまいます。電力会社の資金繰りが厳しくなれば、修繕費といったところから削っていかざるを得なくなり、中長期的に電力のインフラへも影響がでてくることになります。

従って、原子力の再稼働の問題というのは、この夏だけの問題ではなく、経済への影響や電力の投資にも繋がってきます。究極のところ、電気料金を上げるか、再稼働するしか、短期的には解決方法がないということです。

このように、原子力の稼働が必要とは思いますが、そのためにも、原子力に係わる人たちには、今後も原子力の信頼回復に向け、意識改革と、安全性の訴求等に最大限の努力をお願いしたいと考えています。

原子力発電停止による燃料費の増加の見通し 原子力発電を火力で代替した場合のコスト増
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