情報誌「TOMIC(とおみっく)」

49号 2014年3月発行(1/4)

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エネルギーが支える明日の社会のために TOMIC 2014年 第49号 九州エネルギー問題懇話会 シェールガス革命、日本への影響 エネルギー多様化社会に生きる日本

一般財団法人日本エネルギー経済研究所
ガスグループ研究主幹
橋本 裕
 (はしもと ひろし)

  • 1986年 東京大学法学部卒
  • 1986年 東京ガス入社
  • 1991年 同社原料部
  • 1998年 同社ニューヨーク事務所
  • 2003年 同社海外事業部
  • 2006年 国際エネルギー機関(IEA)アナリスト
  • 2010年 日本エネルギー経済研究所 ガスグループ主任研究員
  • 2013年 日本エネルギー経済研究所 ガスグループ研究主幹

今、世界中が注目するシェールガス革命。シェールガス革命が起こった米国では、エネルギー構造の変革に留まらず、経済や産業にも大きな影響を与えています。
シェールガスの日本への輸出も具体化する中、シェールガス革命が日本に与える今後の影響について、世界のエネルギー情勢に精通されている日本エネルギー経済研究所の橋本 裕氏にお話を伺いました。

なぜ、米国でシェールガス革命が起こったのか

〈図-1〉シェールガスと一般の天然ガスの採掘イメージ

米国においてシェールガスの開発が進んだきっかけは、エネルギー価格の高騰と開発技術の進展にあります。

2000年代半ばくらいから世界的に原油などのエネルギー価格が高騰。米国内でも石油やガスの価格が上昇したことで、高コストと言われていたシェールガスの開発費と見合うようになり、投資にインセンティブが生まれました。

一方、シェールガスの開発技術についても80年代、90年代と研究が積み重ねられ、固い岩盤(頁岩[けつがん])の奥深くにあるシェールガスを水圧破砕と水平掘削によって掘り出す技術が開発されました。〈図-1〉

こうした状況に加え、米国では、在来型の天然ガス用のパイプライン網などのインフラが整備されており、これらを利用し、シェールガスを容易に運ぶことができました。また、開発に必要な地質データの蓄積があったことや土地の所有者がその地下の資源について権利を有するとする米国の法律が民間の投資を呼び込みやすかったことも、米国でのシェールガス革命を後押ししました。

シェールガス革命が米国にもたらした影響

〈図-2〉米国の天然ガス生産量の見直し

米国では、かねてより自国内で天然ガスの生産も行われていましたが、国内での需要が多く、パイプラインを通じてカナダから天然ガスを輸入する一方、中東などからのLNGの輸入計画も進んでいました。しかし、シェールガスの開発が始まったことにより、天然ガスの生産が大きく伸び、近い将来、エネルギーの純輸出国になるのではないかと言われています。〈図-2〉

シェール革命は米国内のエネルギー構造にも影響を与えており、中でも発電用のエネルギー構成にそれが顕著に表れています。シェールガスによって天然ガスの生産の増加で価格が下がったため、石炭火力から天然ガス火力への切り替えが進んでいます。また、電力需要を満たすため、原子力の新設の話もありましたが、天然ガス火力の経済性が高まってきたことによって、原子力発電へ投資し難い状況になっています。

またもうひとつ、シェールガスによってルネッサンスを迎えている産業の一つが石油化学産業です。シェールガスからエチレンの原料となるエタンなどが得られるため、自国産の原材料を用いた生産が可能となり、石化設備を増設する話も具体的に進んでいます。十数年前には先細りすると言われ、設備を海外に移す方向に進んでいた産業ですが、現在ではシェール革命に伴って米国内に回帰し、今後の躍進が期待される産業となっています。

 
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