情報誌「TOMIC(とおみっく)」

51号 2015年3月発行(2/4)

  • 印刷
  • PDF
 

エネルギーが支える明日の社会のために TOMIC 2014年 第51号 国際エネルギー情勢と日本の課題 グローバル化の中で考えるエネルギーのベストミックス

原油価格下落の影響

世界のエネルギー需要見通し

原油価格が下がることは世界経済にとってはプラス要因です。日本、米国、中国などの石油消費国では生活コストが下がり、産業の競争力も増していくでしょう。全体としては世界経済を活性化する効果が期待できるわけです。

ただし、石油収入に依存している産油国は困ることになります。その典型がロシアで、輸出額の7割を石油・ガスなどのエネルギー輸出が占めています。欧米の経済制裁などで既に厳しい状況にあるロシアは、原油価格急落で経済的に危機的な状況に陥る心配もあります。ロシアの経済危機によって世界的な金融不安が起こる可能性もあるのです。

また、価格下落はエネルギーの消費者にとっては喜ばしいことですが、資金難で将来に向けたエネルギーの開発や投資が立ち行かなくなる可能性があります。一方で、中国などの新興国では経済成長が鈍化するものの、中長期的には世界のエネルギー需要の増加は避けられません。その結果、将来のエネルギー需要が賄えなくなり、今度は逆に価格が高騰する可能性もあります。

今年は需給が緩和していても、中長期的には、逆に需給逼迫の状況が現れるのではないかと心配しています。

世界に影響を与える米国のシェール革命

天然ガス価格の推移

米国でのシェール革命は、世界のエネルギー情勢に大きな影響を与えました。米国でのシェール開発は、世界のエネルギー需給を緩和させています。すでにLNG(液化天然ガス)の政府輸出許可は8,000万トンに達し、将来、米国は世界一のLNG供給国になるかもしれません。

非在来型のエネルギーであるシェールオイル・ガスは、エネルギーの多様化・多角化の点では大いに役立っています。

また、エネルギーの輸入国である日本やアジア各国にとっては、シェールの出現は重要な意味を持っています。

ただし、原油価格が下がっている昨今、これまでと同様に供給の拡大を続けられるかどうか不安が残ります。低価格が続くと増産のペースが緩むことが考えられ、将来の供給拡大が減速するかもしれないからです。

日本は非在来型天然ガスであるシェールガスに大きな期待を持っていました。その理由は、シェールガスの拡大で米国のLNG輸出が増え、その中で従来日本が輸入していたLNGより安く購入できる見込みがあったからです。

日本が購入している従来のLNGは、原油価格に連動して価格が決まる仕組みになっています。そのため原油の高騰が続いていたここ数年は、天然ガスも値上がりしていました。

米国の天然ガス生産量の見通し

一方、米国のガスは、ヘンリーハブと呼ばれる取引ポイントでの需給環境で値決めされる方式で決定されます。シェールガス増産で、ヘンリーハブでの取引価格が下がり、そのため安い価格でLNGが購入できるのでは、と期待されたのですが、最近の原油価格急落で状況が変わってきました。現在契約した米国産のLNGが本格的に日本に入ってくるのは、2017〜18年頃となりますが、その時点で米国産LNGと従来型のLNGのどちらが安いか高いかは、誰も予想できない状態になっています。とはいえ、米国産のLNGは、新しい供給先としての供給源多様化に効果がありますし、新しい価格の決定方式を導入することも、大いに意味のあることだと思います。

もうひとつの「シェール革命」の課題として、世界のエネルギー安全保障について心配する声があります。米国がエネルギーの自給率を高めてLNGなどの輸出国となれば、中東問題などへの関心を失い、中東の安定のための関与が低下するのではないかという懸念です。ただし、米国にとって、中東問題はエネルギー問題だけでなく、中東和平やイランの核開発などさまざまな課題が関係していることに注意する必要があります。

米国が、エネルギーで自給化が進むからといってそれだけで中東から手を引くとは考えられません。しかし、一方で、「世界の警察」の役割を担ってきた米国が「内向き」になっているのは事実で、外部の問題に関わることに消極的になっています。また、米国では軍事費削減が大きな課題となっており、その面では、米国が中東に対してどう関与していくのか、注視していく必要があります。

 
ページの先頭へ戻る