情報誌「TOMIC(とおみっく)」

53号 2016年3月発行(1/3)

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TOMIC第53号 低レベル放射性廃棄物の処理・処分 〜次の世代へ先送りせず、自国の廃棄物は自国で処分する〜

九州大学大学院 工学研究院 エネルギー量子工学部門 
教授
 出光 一哉
(いでみつ かずや)

昭和55年、九州大学工学部応用原子核工学科卒業。昭和57年、同大学大学院工学研究科応用原子核工学専攻修了。同年、動力炉・核燃料開発事業団東海事業所入社。平成元年より九州大学助手、平成5年に同助教授、平成14年より九州大学大学院工学研究院教授を務める。平成5年、九州大学にて工学博士取得。


エネルギー問題を考えるとき、避けて通れないのが放射性廃棄物の処分の問題です。原子力発電にともなって生じる放射性廃棄物は、一部の低レベル放射性廃棄物を除いて、最終的な処分場が決まっていません。
このままでは将来に課題を積み残してしまうことになります。放射性廃棄物についての正しい知識と、今後どのような道筋が望ましいのか、九州大学大学院教授の出光一哉氏にお話を伺いました。今回は今号・次号の2回に分けてお送りします。

放射性物質を扱うすべての施設から発生

まず最初にウラン燃料について話をしたいと思います。原子力発電所では、ウラン燃料を原子炉の中で核分裂させ、その時に発生する熱エネルギーで水を蒸気に変え、タービンを回して電気を起こしています。

原子力発電所で使い終えたウラン燃料は「再処理工場」に送られ、「再使用可能なウラン、プルトニウム」を分離・抽出し、さらに「燃料加工工場」で新たにプルトニウムを使った燃料(MOX燃料)に加工され、再び原子力発電所で使うしくみがあります。これを「原子燃料サイクル」と呼びます。〈図1〉

原子燃料サイクル〈図1〉

放射性廃棄物は、この原子燃料サイクルと呼ばれる一連の施設群から出てくるもので、高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物に分けられます。

高レベル放射性廃棄物は、使用済み燃料そのものとガラス固化体があります。ガラス固化体は再処理工場で使用済み燃料から再使用可能なウランやプルトニウムを回収した後に発生する放射能レベルの高い廃液にガラス原料を混ぜ溶融させて作製します。

低レベル放射性廃棄物は、原子力発電所などの運転に伴い発生するもので、放射能のレベルに応じて処分の方法が個別に決められています。

また放射性物質として扱う必要のない低濃度を「クリアランスレベル」と呼んでいます。人体への影響がほとんどなく、自然界とほぼ変わらない放射能レベルのため、クリアランスレベル以下の放射性廃棄物は一般廃棄物と同様に取り扱うことが認められています。原子力発電所の解体に伴って大量に出る金属やコンクリートなどがこれに相当し、産業廃棄物として処分されるほか、再利用や再使用も認められています。ただし現状の再利用については発電所の敷地内など限られた場所でしか使われていません。

 
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