情報誌「TOMIC(とおみっく)」

54号 2016年10月発行(3/3)

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エネルギーが支える明日の社会のために TOMIC 2016年 第54号 高レベル放射性廃棄物の地層処分〜世界的に認められている地層処分について正しい認識を〜

たいへん重要な最終処分地の場所選び

最終処分地はいくつかの段階を経て決定されます。まず文献などで適性があるかどうかの調査を行ない、次にボーリングなどの概要調査を行ないます。最終的に候補地を2〜3カ所に絞って精密調査を行ない、最後に地元からの最終合意が得られれば建設地が決定される段取りです。

処分場の場所選びは非常に重要で、いくつか適さない条件があります。水の流れが速い場所、岩盤に大きなヒビが入っているような場所はそもそも向きません。また火山が近い場所、断層が走っている場所、隆起侵食の可能性が大きい場所も避ける必要があります。火山国である日本では火山の影響について気になる人も多いでしょう。火口は100万年の間に最大で10キロ程度動くことがわかっています。そのため現在活動している火山はもちろん、休火山などの火口を避け、少なくとも15キロ以上離れた場所が選定される予定です。加えて地下資源が埋蔵されていないことも大切です。将来、人類が使うような地下資源がその場所にあると、掘り起こして放射性廃棄物に触れる危険性が高くなってしまうからです。

また、地下水の流れや水質、量などの調査はもちろん、地質学、化学、考古学、地下資源などの観点からも調査・研究が行なわれています。国内には北海道幌延町、岐阜県瑞浪市の2ヵ所に研究施設が設けられています。それぞれ堆積岩で塩水系の地下水、結晶質岩で淡水系の地下水と、地盤や地下水の性質が違っており、こうした岩盤や地下水の影響を調べるだけでなく、地下に施設を造るための技術開発などが行なわれています。

世界各国における放射性廃棄物の処分状況

地層処分を行なうことは世界共通の認識となっています が、国によって具体的な処分の内容や進展状況は違います。

北欧のフィンランドとスウェーデンはすでに処分地が決まっており、フィンランドのオルキルオトは2022年から、スウェーデンのフォルスマルクは2029年から操業が予定されています。いちばん進んでいるのはフィンランドで、すでに地下施設の建設が始まっています。当初は地元議会の反対もありましたが、地域への地道な説明により住民が事業を正しく理解し、最終的には住民の84%が最終処分場の受け入れを賛成しました。

使用済み燃料を再処理せず、そのまま地層処分する国も(スイス モンテリ岩盤研究所 カットモデル)

北欧の2カ国は使用済燃料を再処理せず、そのまま処分することになっています。原子炉の数も少なく、一国の中で再処理まで行なうには負担が大きくメリットが少ないからです。スカンジナビア半島は固い岩盤に覆われているため、この固い岩盤を利用して地層処分を行ないます。日本では資源の再利用の観点から再処理を施し、ガラス固化体にして地層処分を行ないます。

フランスは日本と同様、使用済燃料に再処理を施し、ガラス固化体にして最終処分を行なう予定です。フランスには優れた天然のバリアとなる粘土層が存在します。そのため、この粘土層の中から処分地が選ばれる予定です。国によって地層の条件や燃料の使用状況が違うため、その場所に適したやり方で、自国内で無理なく処分することとなります。

次の世代に負の遺産を残さないために

高レベル放射性廃棄物の最終処分を進めていくためには多くの問題を解決しなければなりません。何よりも重要なことは最終処分について正しい知識を持ち、その重要性について多くの人に理解を深めてもらうことです。これまで見てきたように処分の方法や処分地の選定については安全性を第一に考え、さまざまな観点から詳細な検討を重ねていますが、なかなか理解を得られないのが現状です。

最終処分地は迷惑施設といった印象が強く、「危ない施設が近くにできるのはイヤだ」と考える人がほとんどです。けれども自分たちが出したゴミなのだから、自分たちで処理しなければいけないという意識を持つべきです。自らが望んで原子力発電所ができたわけでなくとも、その恩恵を受けて快適な生活をしてきたことは事実なのですから。

今回ご紹介したように、いかに安全性を考えて設計されているかを理解していただき、次の世代に負の遺産を残さないために問題を先送りすることなく、自分たちの課題として考えてもらえればと思います。

 
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