情報誌「TOMIC(とおみっく)」

55号 2017年3月発行(2/4)

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エネルギーが支える明日の社会のために TOMIC 2017年 第55号 先端技術で未来を照らす二つの光〜SPring-8とSACLA〜

世界最大の大型放射光施設スプリング8

スプリング8は1周1,436mの巨大な円型の周りに62個の顕微鏡がついていると思ってください。その名前は「Super Photon ring-8GeV」に由来し、"Photon"は光、"ring"は大きな円形の建物を意味します。また、"8GeV"は80億電子ボルトという世界最高エネルギーを表しています。

スプリング8の構造

上のイラストでスプリング8のしくみを説明しましょう。電子銃からビーム状に放たれた電子は「線型加速器」、「シンクロトロン(加速器)」を通ることで光速近くまで速度を上げ、エネルギーを8GeVまで高められます。その後、エネルギーを保ったまま円型の「蓄積リング」に送られた電子ビームは偏向電磁石を通る際に角度を変えられたり、アンジュレーターの中を蛇行することで放射光を発生させます。その放射光はビームラインの先にある実験施設に送られ、研究対象の物質に当ててさまざまな実験観測に利用されます。

また、放射光を放出したあとの電子ビームは再び偏向電磁石やアンジュレーターを通り、蓄積リングを回り続け、実験施設に放射光を送り続けます。

電子ビームが回り続ける蓄積リング

放射光は、電子のエネルギーが高いほど明るい光となり、進む方向の変化が大きいほど、X線などの短い波長の光を含むようになり、より微小な物質を見ることができます。

そのため、放射光施設では、電子のエネルギーを増大させ明るくする「加速器」、「アンジュレーター」、「偏向電磁石」などの装置が重要になります。加速器で電子を光速まで加速するには50万Vと非常に高い電圧が必要で、制御や安全のためのさまざまな大規模な装置が必要になります。また、偏向電磁石も1つ5トンもあり、全体に巨大な設備になるのです。

日本独自の技術「真空封止型アンジュレータ」

国際的な競争が激しい先端科学技術の分野で、「スプリング8」と「サクラ」が世界最高水準を保っているのはなぜでしょうか?これには、独自に開発した「真空封止型アンジュレータ」を採用したことが大きく関わっています。

アンジュレーターは、N極とS極の磁石を交互に並べて周期的に極性が反転する磁界を作り出し、入ってきた電子を何度も曲げ蛇行させることによって、極めて明るい光を得ることができる装置です。

真空封止型アンジュレータ

大気中で電子を周回させると、電子はすぐに気体と衝突し、軽い電子ははじき飛ばされてしまいます。そのため、電子の通り道の気体を取り除いて真空にする必要があります。スプリング8の蓄積リングでは、長さ約1.5kmの電子の通り道をパイプで覆い、内部を宇宙空間並の真空状態にしています。この際、従来、電子ビームを通すための真空パイプの外側に設置されていた磁石を、スプリング8ではその内部へ導入することを発想しました。磁石から真空中に気体が漏れ出ないようチタンコーティングを施すなどの対策を行い、真空パイプ内に磁石を入れることに成功。その結果、磁石同士の距離を縮めることができ、より強い磁界を発生させることが可能になり、放射光の大幅な性能改善が図られました。

極めて明るい光を作り出すアンジュレータ

 
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