情報誌「TOMIC(とおみっく)」

55号 2017年3月発行(3/4)

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エネルギーが支える明日の社会のために TOMIC 2017年 第55号 先端技術で未来を照らす二つの光〜SPring-8とSACLA〜

世界で最も小さなものが見えるサクラ

サクラは、スプリング8同様X線放射光を利用しますが、レーザーのX線を発生させます。レーザーは短い時間だけ光るため非常に速く動いている物質の瞬間的な動きを観察することができます。

全長700mのサクラの構造

サクラでは、電子銃から発生させた電子を400メートルある加速器でスプリング8を超える8.4GeV(84億電子ボルト)まで加速させ、240メートルに及ぶ「真空封止型アンジュレータ」によって精密に蛇行を繰り返すことでスプリング8の10億倍の明るさを持ち、世界一短い波長のX線レーザー(X線自由電子レーザー)を短いパルスで発生させる性能を持っています。スプリング8の技術はサクラにも継承され、同じ考え方をX線自由電子レーザーに適用することで、大幅な小型化と省コストを実現しています。

実は当初、X線自由電子レーザー分野の研究開発で、我が国は欧米から5年ほど遅れをとっていましたが、スプリング8で培った「真空封止型アンジュレーター」を活用することでその差はあっという間に縮まりました。しかも、アメリカで稼働中の施設が全長2キロメートル、ヨーロッパで建設中の施設は全長3.4キロメートルなのに対して、「サクラ」はわずか700メートルです。短い分、建設コストを低減することができ、建設費は欧米施設の約1,500億円に比べて「サクラ」は約400億円で収まり、工期も大幅に短縮することができました。「サクラ」以降に計画された施設はコンパクト化することが常識になり、世界の新しいトレンドを生み出したのです。

可能な限り小型化を図るための要素技術を支えているのは、厳選された素材や高度な加工技術、高精度計測制御技術など、参加企業400社以上にも及ぶ我が国の産業技術の裾野の広さです。「サクラ」は、現代日本の最先端技術の結晶ともいえるでしょう。

電子の加速能力を従来の約2倍にあうるCバンド加速器(サクラ)
X線レーザーを生み出す真空封止型アンジュレータ(サクラ)

 
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