情報誌「TOMIC(とおみっく)」

56号 2017年10月発行(1/4)

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TOMIC第56号 日本経済の成長とエネルギー〜海外のエネルギー事例から考える日本の現状と未来〜

国際環境経済研究所 所長
常葉大学 経営学部 教授
 山本 隆三
(やまもと りゅうぞう)

1951年、香川県生まれ。京都大学卒、住友商事入社。石炭部副部長、地球環境部長などを経て、プール学院大学国際文化学部教授に就任。2010年より富士常葉大学総合経営学部教授、2013年より現職。専門は環境経済学、エネルギー環境政策論。国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構JCM実証事業審査委員会委員・技術委員など多数の役職を務める。著書に『電力不足が招く成長の限界』など。


経済の成長とエネルギー政策には密接なつながりがあり、世界各国は自国の成長を促すためにさまざまな施策を行なっています。長らく経済が低迷してきた日本では、産業の競争力を回復させることが急務となっていますが、そのためには適切なエネルギー政策を実行することが欠かせません。海外のエネルギー事情にも詳しい常葉大学経営学部教授の山本隆三氏に、日本におけるエネルギー問題の課題や展望について、海外の事例も踏まえながらお聞きしました。

エネルギーコスト上昇が家計を直撃する

この15年間で日本の世帯平均収入は10%以上落ち込んでいます。所得の中央値は420万円ぐらいですが、ここから税金などを引くと可処分所得は3百数十万円程度です。デフレだから収入が減っても大丈夫という人もいますが、実際の家計は非常に苦労しています。まず減らされるのがこづかいで、交際費、衣料費などが続いていきます。ほとんどの費目が減少している中で、ひとつだけ増えているものがあります。それが電気代です。

生活の中で必要な電気代は削ることができません。そのため電気代が上がれば家計に大きな影響がでます。また生活に余裕のない世帯では、最初から必要最低限の電気しか使っていないので、節電のしようもありません。

産業においてもエネルギーコストは大きな負担となっています。日本は製造業を中心とした国ですが、リーマンショックの影響で製造業は大きく落ち込み、さらに震災が起こったためにいまだ回復できていません。データを見るとエネルギーコストの高い分野ほど回復に時間がかかっていて、エネルギーコストがいかに業績に影響するかが見てとれます。

震災前、製造業のエネルギーコストは3兆円ちょっとでした。それが震災後のピーク時には4兆3000億円まで上がります。上昇した1兆2000億円を電気料金ではなく人件費に充てていれば、製造業全体で3%の賃上げが可能でした。ところが、それらはすべて中東などからのエネルギー資源の輸入に充てられ海外に流出しています。

それは製造業だけではありません。8000人の従業員を抱える全国展開のスーパーでは、電気料金が約50億円増えました。50億円あれば、従業員それぞれが約60万円のボーナスをもらえた計算になります。サービス業においてもエネルギーコストが与える影響は大きいのです。

 
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