情報誌「TOMIC(とおみっく)」

57号 2018年2月発行(3/4)

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TOMIC57号 これからの再生可能エネルギーを考える〜九州の現状と未来を支えるためのエネルギーミックス〜

電力のオーバーフローで九州の社会生活がストップする?

再生可能エネルギーを普及していくためには送電線の問題もあります。メガソーラーは何もないところに開発されることが多いので、そこまで送電線を引く必要があります。当然お金がかかり、ときには何億円という金額になります。そうでなくとも日本の送電線は、大型発電所から各家庭などへ電力を安定供給するため幹線は太くなっていますが、分岐し枝分かれすることから末端に向けて次第に細くなるようにつくられています。そのため地域の末端に多く設置されているメガソーラーから、大量の電気を送ることが難しい構造になっています。

また不安定な再生可能エネルギーが送電線の大半を占めると、電力の安定供給ができなくなってしまいます。春と秋には冷暖房を使わず電力需要が下がり、一方で日照が良いことから太陽光が効率よく発電できるため、どうしても電力供給が過剰になります。実際に九州では昨年のゴールデンウィーク中に太陽光発電が需要の7割を越す日があったと聞いています。

メガソーラー

電力の供給が多すぎてオーバーフローするとどうなるのか? 最悪の場合、停電が起こります。停電が起こると、病院や老人ホーム、保育園などは非常に困ることになります。高齢者や幼児だけでなく、大人も困ります。鉄道や空港もストップして、家では冷蔵庫などの家電も機能しなくなります。産業や生活に大きな影響があり、社会や経済に与える打撃は計り知れません。電気はそれだけ深く社会に入り込んでいるのです。

太陽光が増えすぎたための出力抑制は九州においては喫緊の課題ですが、そのリスクに気づいている人は多くないと思います。制度改革や蓄電池などの研究開発には時間がかかります。しばらくは努力してリスク管理をしていくしかないと思います。

Pickup Column
●太陽光の出力が全体の7割を超えた2017年4月30日

九州電力管内では太陽光発電の導入が急速に進んでいます。2017年4月30日13時には、太陽光の出力が九州エリアの需要の73%を記録。需要量を上回る量の電力が発電されたため火力発電を減らすだけではなく、余剰電力を揚水運転に活用することで対応してもぎりぎりの状態で、非常に厳しい需給状況でした。

再エネ事業者ではなく、再エネ事業の拡大という課題

電気は発電するだけでなく、需要側に届けるための安定的な送電網の維持管理が重要です。そのためには大手電力も再エネ事業者も協力して、電力システム全体を維持していく必要があります。残念なことに一部の再エネ事業者の中には、自分たちの利益を優先して主張する事業者もいます。また認定を受けても、なかなか稼働しない事業者もいます。

現在の再生可能エネルギーに対する方策は、再エネ事業者数を拡大するものですが、事業者数が拡大したからといって、必ずしも再エネが拡大するとは限りません。無責任な事業者が増えて、再エネの導入が進まないのであれば本末転倒でしょう。今後は再エネそのものの拡大を目指すべきで、そのためには送電網を持つ大手電力会社が責任をもって運用できる体制をつくるべきだと私は考えています。

もともと日本は世界で最も停電時間が少ない国で、電力については世界的にも優秀な需給体制を持っています。こうした優秀な体制はこの国の資源でもあります。再生可能エネルギーの導入を進めながら、電力の安定供給を維持していくにはどうすればいいのか、国とともに考えていくべきです。

 
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