情報誌「TOMIC(とおみっく)」

59号 2019年3月発行(3/4)

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TOMIC第59号 新しいエネルギー基本計画の考え方〜第5次エネルギー基本計画が目指すもの〜

2050年の「脱炭素化」を実現するためにどうするのか

では、具体的な数値などが明記されていない2050年へ向けた「脱炭素化」をどう達成していくのか。そこには2つの重要な考え方があります。2050年に向けては先に述べたように多くの革新的な技術開発の可能性と不確実性がありますが、新たな技術革新や進歩の可能性に対応するのが「野心的な複線シナリオ」、今後起こり得る様々なリスクなどの不確実さに対応するのが「科学的レビューメカニズム」です。

(1)野心的な複線シナリオ

2050年への道のりでは、前に述べた通り2030年までにはなかった大きなイノベーションが起こる可能性があります。むしろ、こうしたイノベーションなしには2050年のビジョンは実現しないでしょう。つまり今の延長線上で考えるのではなく、新たな技術革新などの進歩も取り込んであらゆる選択肢を持って行動するのが「野心的な複線シナリオ」です。今後開発される技術やリスクガバナンスを含めて、未来に向かって流動的に進んでいくというものです。

そのために野心的な複線シナリオではOODA(ウーダ)と呼ばれるサイクルを実践します。観察(Observe)、方向づけ(Orient)、決定(Decide)、行動(Act)の頭文字をとったもので、目標に向かって階段を上っていくPDCAサイクルとは違ったアプローチです。その時々の状況や変化をよく見ながら、目標を見直し、より最適な選択肢をとっていく手法です。今後どのようなイノベーションが生まれるか分からず、最適な答えは時代や技術によって変化します。

コスト低減と野心的複線シナリオ

2050年に向けた考え方

(2)科学的レビューメカニズム

もうひとつの「科学的レビューメカニズム」は、実践される「野心的な複線シナリオ」を評価するための仕組みです。最新の技術動向と情勢を定期的に把握し、透明な仕組み、手続のもと、開発目標や重点度合いを柔軟に修正、決定していきます。科学的という言葉は、多面的あるいは統合的と言い替えてもいいかもしれません。

第4次エネルギー基本計画では、エネルギーを評価する基準は@コスト、ACO2排出量、B自給率の主に3つでした。第5次では、これに加えて地政学的リスク、地経学的リスク、エネルギー競争に劣後するリスクなど、さまざまな判断基準を設けています。特に、従来の電源別のコスト検証ではなく、脱炭素化、エネルギ−システム全体でのコスト・リスク評価という視点が重要です。

 
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