情報誌「TOMIC(とおみっく)」

59号 2019年3月発行(4/4)

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TOMIC第59号 新しいエネルギー基本計画の考え方〜第5次エネルギー基本計画が目指すもの〜

エネルギー基本計画は国民全員で取り組む「総力戦」

第5次エネルギー基本計画の中には「総力戦」という言葉も出てきます。実は、総力戦は今回に始まったことではありません。日本では60年代からずっと総力戦をやってきて、知恵と技術と工夫で現在のような地位を築きました。豊かになって忘れがちですが、その意識を改めてリマインドしたと言えるでしょう。これから日本のエネルギー自給率が驚異的に改善するような状況はまずありません。エネルギーはいつでも手に入るものではなく、安全もタダではありません。その意識を持って、「長期的に安定した持続的・自立的なエネルギー供給により、我が国経済社会の更なる発展と国民生活の向上、世界の持続的な発展への貢献を目指す」というエネルギー基本計画が掲げる目標に向かって国民全員で取り組まねばならないのです。

総力戦での対応の考え方は「360度対応」

重要なことは「エネルギーの自立」を目指すこと

今後は新しいエネルギー基本計画に基づいて、具体的な政策や制度を設計していくことになります。その際に大切にしなければいけないことは、エネルギーの自立を目指すことです。基本計画の冒頭にも「戦後一貫したエネルギー選択の思想はエネルギーの自立である」と書かれています。

エネルギーの自立とは、必ずしも自給率を高めることだけではないと思います。例えば技術の自給によってエネルギーの自立を図ることも可能です。天然ガスや石油を産出する国と安定的な関係を築いていけば、自給率が低くてもエネルギーの自立は可能でしょう。さらに、日本の技術がないとその国の産業が成り立たないとなると、日本のエネルギー問題にも協力してくれるはずです。

現代社会では、日本だけですべてをまかなうのは不可能です。世界の中で自立できるのは資源、技術力、外交力のいずれかを持っている国といわれます。すべてを持っているアメリカのような超大国はごくわずかで、国土の狭い日本のような国は、どういった要素を伸ばしていくべきか考える必要があります。日本は高い技術力で世界から尊敬されており、そのおかげでいろいろな支援を受けることができます。技術力で国際貢献するという国の姿が、エネルギーの自立にも寄与しているのです。

エネルギー問題のゴールから階層的に展開する

これからエネルギー政策を実行していく際に、私が重要だと思っていることを、最後に少しお話ししたいと思います。

日本ではボトムアップ式のやり方が非常に多く見られ、それなりに成果も上げています。その一方でトップが大きな目標を掲げ、それを階層的に展開していく手法はあまり得意でないと感じます。階層的というのは、まず達成すべきゴールを定め、それに基づく原則を立て、そこへ到達するための戦略を実践していく手法です。

下から登っていくボトムアップ式では、どこかでトラップに引っかかり、身動きできなくなることがあります。けれども上から降りていく方法では、いろいろな降り方が可能なため、トラップに引っかかることもありません。また、下の階層では利害が一致せず、しばしば対立が起こることがありますが、こんな場合は1つ上の階層に戻って、何のためにこれをやっているのか再確認することで、対立を緩和することができます。

この手法はアメリカなどが取り入れて、うまく機能しています。日本人が得意とするものではありませんが、試してみる価値はあると思います。うまくやっていくためには「本当のゴールは何か」ということをくり返し丁寧に説明していく必要があります。

エネルギーは国民に関心が高いテームであり、その時々で表面に出てきた問題を取り上げて論議しがちです。けれども個別の議論に終始すべきではなく、もっと大きな社会の枠組みの中で、全体の最適解を求めるべき問題なのです。今回のエネルギー基本計画には具体的数値や目標がないので、現場などから「どうしていいのか分からない」という声が上がっているのは事実です。けれども私は、国としての姿勢と方針を明示することがエネルギー基本計画の本来の姿だと思っています。これまでとは発想の大きな転換をしたという点では、たいへん意味があると考えています。

 
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