情報誌「TOMIC(とおみっく)」

60号 2019年10月発行(3/4)

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TOMIC60号 各国のエネルギー安全保障への取組みと日本の課題〜これからのエネルギー安全保障を考える〜

(2)ヨーロッパ

省エネと再エネによって大幅な低炭素化を目指したヨーロッパは、結果的に自給率の向上も実現し、エネルギー安全保障にもプラスとなっています。域内に張りめぐらされた電力・ガスのネットワークを最大限に活かし、セキュリティの強化を目指しています。一見、日本とヨーロッパの間にはエネルギー安全保障にまつわる関係が無いように思うかもしれませんが、そうではありません。例えば、日本とヨーロッパはともにLNGを輸入しています。万が一日本のLNG輸入が不足した場合には、もともとヨーロッパ向けであったLNGを日本に持ってくることが出来ます。替わりにヨーロッパでは、域内での生産やパイプラインによる輸入を増やしたり、地下に貯蔵した天然ガスを放出したりすることによって天然ガス供給を維持することが出来ます。

また石油では、国際エネルギー機関(IEA)の下で、非常事態に際しては日本やヨーロッパ、アメリカを含む加盟国が協調して行動することになっています。このように、他国との協力によってもエネルギー安全保障を強化することが出来るのです。

(3)アメリカ

世界最大の石油消費国であるアメリカは、以前は大量の石油を輸入していました。ところが、2000年代後半に起こった「シェール革命」により、原油、天然ガスの国内生産量が大きく増加したことから状況は激変し、現在は石油の自給率が86%まで上がっていて、いずれは100%になる可能性があると言われていますし、すでに他国への輸出も始めています。

アメリカの自給率推移

このことは日本にとってもメリットで、中東に依存しがちな石油を、安定した先進国であるアメリカから購入することができれば、リスク分散、必要量の確保、価格などでの恩恵があります。ただし、シェールオイルにはまだ不明なことも多く、場合によっては早い時期に生産量が頭打ちになる可能性も残っています。

もうひとつ、安全保障の面から見逃せないのが中東との関係です。アメリカはこれまで中東に軍隊を派遣して当該地域の安全保障に貢献してきましたが、石油を自国でまかなえるようになるとその意味合いが薄れてきます。中東和平はエネルギー資源だけの問題ではありませんが、トランプ大統領の動向を含めてアメリカの今後の動きを注意しておく必要はあるでしょう。

写真
(4)ロシア

エネルギー安全保障の上で、今後、日本がもっと活用すべき国のひとつがロシアです。日本と地理的に近く、エネルギー資源に恵まれた資源大国です。もともとロシアはヨーロッパとの関係が深かったのですが、ヨーロッパの低炭素化政策やロシアへの過度な依存に対する危機感からロシアからの資源輸出は減退傾向にあります。そのためロシアはアジア地域との関係を深め、エネルギー資源の輸出拡大を図りたいと考えています。アジアに近い東シベリアはまだまだ未開発で大きなポテンシャルがあり、長期的に豊富なエネルギー資源の開発が期待できます。日本はロシアからLNGの8.1%を輸入していますが、更なる拡大が期待されます。

 
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