九州エネルギー問題懇話会トップページ情報誌「TOMIC(とおみっく)」TOMIC61号(3/4)
61号 2020年3月発行(3/4)
以上のように、レジリエンス対策の効果を最大限に発揮するためには、電力会社のみならず、自治体、企業、地域住民等が協調し、コミュニティとして対応することが欠かせません。
コミュニティ全体で災害対策を行った良好事例としては、宮崎県を流れる耳川の事例があります。耳川流域の市町村では、2005年の台風14号で甚大な浸水被害が発生しました。原因のひとつが、記録的な豪雨によって斜面が崩壊したことで、河川や九州電力のダム貯水池に大量の土砂が流れ込み、河川が氾濫したことです。その対策のため、九州電力は、ダムに流入する土砂を下流に流す「通砂」(※)と呼ばれるダム運用が行えるような改造を関係機関の協力のもと行うことになりました。
ダム通砂運用とは、台風による大雨の時に、ダムの水位を下げることで、貯水池を本来の河川のような状態にし、流れる水の力を利用して上流から流れてくる土砂を下流へ通過させる新たなダムの運用のことです。この運用により、ダム上流域では浸水リスクの低減が図れるとともに、ダム下流河川では、生態系を含む水域環境の健全化が期待されます。
出典:九州電力(株)
従来の構造では洪水時に思うように土砂を通過させることができないため、既存のダムの高さを構造的に問題のない範囲で部分的に切り下げる改造工事を実施しています。 この改造が、治水、利水、自然環境にも良いことが理解され、「耳川をいい川にする」を合言葉に、住民・漁業者・自治体・大学までも巻き込んだ活動となっていきました。これは電力会社単体ではできないことで、電力の安定供給+河川の安全+自然環境保護を同時に実現した全国でも珍しい例です。