情報誌「TOMIC(とおみっく)」

66号 2022年9月発行(2/5)

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TOMIC第66号 電力小売市場の混乱を考える〜電力小売自由化がもたらした課題と将来展望〜

電力小売市場の混乱はなぜ起こったのか?

卸電力取引所で取り扱う電力は、大手電力の発電部門や発電専門会社から供給されるものがほとんどで、しかも一日前市場という翌日受渡しをするスポット取引が大半を占めています。

@燃料高騰による電力価格の上昇

今回の問題が起こった要因のひとつに燃料価格の高騰があります。コロナ禍からの経済回復に伴って世界的にエネルギー需要が伸び、火力発電の燃料となるLNG(液化天然ガス)の価格が上がり始め、2021年秋以降には大きく高騰しました。それに伴い、電力の卸価格も徐々に上昇し(図表2参照)、新電力の調達コストも上昇、売れば売るほど赤字になるという「逆ざや」状態に陥ります。その後のロシアによるウクライナ侵攻もあり、さらなる燃料価格の上昇が懸念される状況です。

JEPXシステムプライス(24時間平均)(図表2)

A電力の供給力不足

電力の供給力不足という問題もあります。現在、火力発電が電力安定供給の中心的役割を担っていますが、再生可能エネルギー(以下再エネ)の普及拡大や、世界的な脱炭素化の流れの中で、火力発電の稼働率が大きく低下し、老朽火力を中心に休廃止が進んでいます(図表3参照)。一方、天候に左右される再エネでは安定供給が難しく、原子力発電の再稼働も進んでいません。このようなことを背景に、慢性的に電力が不足している状態が続き、特に夏・冬場に電力需給がひっ迫する状況が常態化しています。

今後10年間の火力供給力の増減見直し(図表3)

B自由化市場におけるリスクヘッジの問題

一方で、新電力の側にも課題があったと思います。自由化市場では何が起こるか分からず、今回のような価格高騰が起こることもある程度予想し、必要な備えをしておくことも考えられました。例えば、卸電力市場からの調達だけではなく、自前の発電設備を持つ、あるいは大手電力の発電部門から直接電力調達をする等のリスクヘッジをあらかじめ講じていた会社も少なからずあるようです。

カーボンニュートラルに、コロナ禍からの経済回復による燃料高騰、ウクライナ問題等通常では考えられないような出来事が重なったかなり特殊な状況ではありますが、課題にどう対応していくかは企業としての経営判断であり、そのための適切なリスクヘッジは欠かせません。

 
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