情報誌「TOMIC(とおみっく)」

64号 2021年9月発行(2/5)

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TOMIC第64号 福島第一原発における処理水の海洋放出について〜処理水に含まれるトリチウムとは?〜

「トリチウム」とは? なぜ除去できない? 危険性は?

報道などではALPSで除去できない「トリチウム」という物質に注目が集まっています。「トリチウム」は「水素」の放射性同位体で、「水素」 の原子核には陽子が1個、「トリチウム」には陽子1個と中性子が2個あり、化学的性質は普通の「水素」とほとんど同じです。通常は水の状態で存在していて、水に溶けているといった状態ではなく、水そのものとして存在しています(図1参照)。そのため、「汚染水」の中から「トリチウム」だけを取り出すことは非常に難しく、現状ではその技術が確立されていません。

図1 「トリチウム」は「三重水素」と呼ばれる水素の放射性同位体

「トリチウム」は、原子核を構成する中性子の数が多いため不安定な状態となっており、ベータ線(β線)という放射線を放出し、最後には放射線を出さない安定なヘリウム3(3He)というガスに変わります。(※1)

「トリチウム」はもともと自然界に存在している物質です。宇宙から降り注ぐ宇宙線(放射線)が大気に衝突し、上層部で毎年100g単位の「トリチウム」が生成されています。

「トリチウム」が放出するβ線は非常に弱く、空気中で5o、水中(人体組織中)では0.005oしか進むことができず、ヒトの細胞膜すら通過することができないため、外部被ばくのリスクはほとんどないと考えられています。

しかし、水の状態で存在する「トリチウム」は、飲料水、食物として体に取り込まれて内部被ばくの可能性がないわけではありません。けれども人体への影響は非常に低く、私たちが食べているホウレンソウや海藻に含まれているカリウム40(40k)の600分の1以下とされています。また、体内に入った「トリチウム」は、大部分が水の状態で存在し、水と同じように排出され、体内で蓄積・濃縮されないことが確認されています。

(※1)放射性物質が放射線を出す能力はだんだん減ってきます。半分になるまでにかかる時間を「半減期」といいます。半減期は放射性物質の種類によって異なり、トリチウムの場合は12.3年です。

 
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