情報誌「TOMIC(とおみっく)」

47号 2013年1月発行(1/4)

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エネルギーが支える明日の社会のために TOMIC 2013年 第47号 九州エネルギー問題懇話会 日本経済の再生に果たすエネルギーの役割〜原子力再稼働に向けて〜

京都大学原子炉実験所
教授・工学博士 山名 元
(やまな はじむ)

1953年京都府生まれ。76年東北大学工学部卒業。81年東北大学大学院工学研究科博士課程修了。動力炉・核燃料開発事業団(現、日本原子力研究開発機構)を経て、96年京都大学原子炉実験所助教授に就任、2002年より現職。原子力安全委員会審議会委員。著書に『間違いだらけの原子力・再処理問題』、共著に『それでも日本は原発を止められない』など。


2030年代に脱原発を目指す提言が掲げられる中、電気料金値上げの話がいよいよ聞こえ始めました。このまま原子力の再稼働が進まなければ、経済、産業、そして暮らしはどのような影響を受けるのでしょうか。京都大学原子炉実験所の山名元教授に、原発ゼロがもたらす社会と今後の原子力のあり方について語っていただきました。

基幹的政策とは成り得なかった今回のエネルギー戦略
原子力をゼロとした場合の代替エネルギーへの不安
原子力の長期停止に伴う日本経済への影響
早期に求められる原子力の再稼働
原子力に求められる更なる安全性の追求

基幹的政策とは成り得なかった今回のエネルギー戦略

平成24年9月14日に、前政権において、「2030年代に原子力をゼロとする」とした「革新的エネルギー・環境戦略(エネルギー・環境会議決定)」が出されました。しかし、同月19日の閣議においては、「当戦略を踏まえて、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する。」という曖昧な表現に止まりました。これは、この戦略が日本の基幹的政策としては決定できなかったことを意味します。

政権が代わったことで、この戦略については、今後見直しが進むと思うのですが、この戦略の問題を、改めて考えてみたいと思います。この戦略には次の三つの問題があると考えています。

この戦略は「三つの柱」を掲げています。第一が原子力に依存しない社会の実現、第二がグリーンエネルギー革命、そして第三がエネルギーの安定供給、となっています。しかし私は、エネルギー政策としてこの順序がおかしいと思っています。これが一つ目の問題です。我が国は、大量のエネルギー資源を海外から輸入し、大量の機械製品等を輸出する貿易で成り立っている国です。貿易が日本の存立基盤であり、エネルギーの安定供給は食料や防衛と同様に疎かにできないものです。このため、エネルギーの安定供給こそ第一の柱となるべきです。国の存立基盤であるエネルギーの安定供給を確保しながら原子力のあり方を考えるというのであれば、まだ理解できますが、原子力をゼロにすることを第一の目標として、安定供給を三番目に置くというのは順序が全く逆です。

二つ目の問題は、この方針の決め方です。2030年代に原子力をゼロにするとき、社会的・経済的リスク、海外との関係など大きな問題が発生するだけでなく、大きな国民負担も発生します。そのような問題や負担等について国民に十分に伝えないまま議論され、「原子力が好きか嫌いか、ゼロにしたいか否か」という感情や願望が主体で、決められていったように私は感じています。

そしてもうひとつが、時間軸に沿った具体策の問題です。この戦略は、2030年もしくは2030年代にエネルギー構成をどうするか、という将来の目標しか言っておらず、時間軸に沿ってどう具体的に変えていくのかを、明白には説明していません。実はこれが一番大きな問題です。

国の根幹に関わるエネルギー政策は、慎重に時間を追い、失敗のないよう決めていく必要があります。例えば、10年単位で目標を定めて、それを確実に達成していくような慎重さが必要です。しかし、再生可能エネルギーの不確実性や火力発電依存度の高止まり等の問題を問うことなく、そこに至るための現実的な具体策が、ほとんど示されていないのです。

閣議においても、「原子力をゼロにする」という目標だけの戦略でいいのかということが問われ、結果、非常に曖昧な決定となったのでしょう。これまでの経済活動も、それによって成立した豊かな社会も、エネルギーの安定供給が一つの成立要件となっていたのです。この基盤が確実に揺らごうとしているのですから、経済界から反対が出るのも当たり前の話です。

 
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