情報誌「TOMIC(とおみっく)」

47号 2013年1月発行(3/4)

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エネルギーが支える明日の社会のために TOMIC 日本経済の再生に果たすエネルギーの役割〜原子力再稼働に向けて〜

原子力の長期停止に伴う日本経済への影響

写真:山名 元氏

現在も原子力発電所のほとんどがストップしているという状況が続いていますが、これは大変深刻な事態です。原子力をゼロとするならば、火力発電による焚き増し用の燃料費が、1年間におよそ3兆から4兆円超かかってきます。電気事業者はこれまで電気料金を上げず、内部留保を取り崩すことで乗り切ってきましたが、今後は全国平均で2〜3割は電気料金を値上げしなければならなくなるでしょう。

仮に、電気料金が3割上がった場合、企業の生産コストのおよそ3〜6%に響いてくるという計算結果が出されています。生産コストに対して利益率が数%という素材産業や中小企業にとって、3割の値上げは利益が出ないことを意味します。事業を廃止したり、あるいは電気代の安い海外に移転したりといった動きも出てくると考えられます。

日本は、製品を作りそれを輸出するという貿易で生きている国であり、品質の良いものを作ることが日本の生命線です。必要な部品や素材を作る産業がやっていけなくなれば、日本の技術力は空洞化してしまいます。これは、日本の国力が落ちることを意味します。貿易収支が負に転じれば、最終的に経常収支も負に転じるでしょう。これはとても危ない話なのです。

関西電力管内における電力の最大使用率の推移(平成24年7月2日〜8月22日)<グラフ-2>

昨年7月に大飯原子力発電所が再稼働しましたが、関西では昨夏の7月から8月の間に、電力供給に対する需要が90%を超えるという電力需給がひっ迫した日が数日ありました〈グラフ-A〉。昨年九州では火力発電所の故障で200万kW規模の電源が一気に落ちるというトラブルがありましたが、大飯が動かない状態で同様のことが関西で起こっていたら、本当に停電になっていたことでしょう。

日本の電力需給は、原子力の停止により、極めて厳しい状況が続いています。昨夏は、一部の地域で、節電の目標が定められるなど、需給状況は厳しく、計画停電の恐れもありましたが、多くの産業で夏場の空調を抑える他、操業時間を休日や夜間に移したり、生産自体を縮小するなどして乗り越えたというのが実情です。この状態にいつまで耐えられるのでしょうか。

経済や社会の安定性という意味では、我が国はすでに厳しい段階に来ているとも言えます。電気代が上がる、停電のリスクがある、節電を強いられるという三重苦に、いつまで耐えられるか我慢比べの段階に入っているように感じます。

早期に求められる原子力の再稼働

原子力の再稼働については、手続きの正当性をどうするかということと、現在直面している全日本的なリスクのバランスを取り、早く実施できるよう政治判断を行う局面に来ています。今は、原子力の安全基準の見直しができていないため、これを待つという状況ですが、そうした場合、この間の経済的・社会的リスクを受ける相当な覚悟が必要です。これとは違うシナリオとして、安全規制の見直しを加速した上で、安全余裕の高い炉については政治判断で再稼動させることで、経済的・社会的リスクを回避するという道もあるのです。

私個人としては、このようにして、慎重を期した上で再稼動の判断を進めることで、日本社会が沈没するリスクを避ける方が有益だと考えます。もちろん原子炉が安全でなかったらこんなことは言いません。

 
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