情報誌「TOMIC(とおみっく)」

53号 2016年3月発行(2/3)

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エネルギーが支える明日の社会のために TOMIC 2016年 第53号 低レベル放射性廃棄物の処理・処分 〜次の世代へ先送りせず、自国の廃棄物は自国で処分する〜

低レベル放射性廃棄物の処理・処分

原子力発電所からは、気体状、液体状、固体状などさまざまな低レベル放射性廃棄物が発生します。具体的には次のようなもので、以下のような一次処理を行ないます。〈図2〉

埋設するための処理方法〈図2〉

建物内の空気はフィルターなどを通して放射性物質をできるだけ取り除いた後、放射性物質の濃度を測定し、基準以下であることを確認して大気中へ放出されます。

洗浄に使われた廃液など液体状のものは、ろ過や蒸発濃縮作業などをした上で、放射性物質の濃度を測定し安全を確認して海へ放出されます。また蒸留水は施設内で再利用することもあります。液体状の廃棄物を蒸発濃縮した後に残った濃縮廃液は、セメントやアスファルトで固めてドラム缶に詰められます。

紙や布などは焼却、圧縮などを行ないます。また使用済みフィルターやイオン交換樹脂などは貯蔵タンクに一定期間保存して放射能レベルを下げてからドラム缶に詰められます。原子炉に使われた制御棒や炉内構造物などの金属は、切断などをしたうえで容器に封入します。

こうした低レベル放射性廃棄物には放射能レベルによって3つの区分があり、それぞれ処分・埋設の方法が違います。〈図3〉 比較的レベルの小さい低レベル放射性廃棄物については、すでに一部で国内での処分が始まっています。

低レベル放射性廃棄物の種類と処分方法〈図3〉

浅地中トレンチ処分
放射能レベルが極めて低いものには「浅地中トレンチ処分」と呼ばれる方法がとられます。地中に溝を掘ってドラム缶等を埋設する方法で、環境中の放射能とさほど変わらないレベルの放射性廃棄物に対して行われます。埋設した土地については50年程度の管理期間を経た後、建物を建てたりするなどの土地利用が可能となります。

浅地中ピット処分
放射能が比較的低い低レベル放射性廃棄物には「浅地中ピット処分」と呼ばれる手法がとられます。中身が出てこないような頑丈なコンクリート製の構造物をつくり、その中に放射性廃棄物を入れて地下数メートルに埋める方法です。例えると前述の浅地中トレンチ処分が土葬だとすると、浅地中ピット処分はちゃんとしたお墓をつくってあげるイメージです。
また埋設した土地については300年ほど土地利用を制限して管理することになっていますが、それ以降は一般的な土地利用が可能となります。この300年という数字にも根拠があります。浅地中ピット処分が行われるのは半減期が30年より短い放射性物質が大部分を占めます。30年の10倍である300年後には放射性物質が1000分の1程度になっており、自然界の放射能とほとんど同じレベルになっているからです。
青森県六ヶ所村にある日本原燃鰍フ低レベル放射性廃棄物埋設センターでは、すでに浅地中ピット処分が始まっています。
各発電所で発生した濃縮廃液や焼却灰などをセメントで固めたものや、金属やプラスチック類などをドラム缶中に固めたものを対象に1992年12月から受け入れを開始し、2015年10月現在200Lドラム缶約28万本が埋設処分されています。〈写真1〉

中(余裕)深度処分
低レベル放射性廃棄物の中でも比較的放射能が高いものについては「中(余裕)深度処分」が行われます。地下70〜100メートル程度の場所にコンクリート製の構造物をつくり、その中に放射性廃棄物を収め、すき間をモルタルで充填して埋め戻します。完全に地下空間で閉鎖されるため、より安全性の高い処分になります。
中深度処分が行われる放射性廃棄物は、比較的放射能レベルが高く、300年程度の管理期間では放射能のレベルがあまり下がらないものです。300年を超える管理期間となると人の手では確実には行なえません。そこで、人がなかなかたどり着けない地下深くに埋めてリスクを減らそうという考え方です。また地下空間は気象現象の影響を受けにくいというメリットもあります。
中深度処分の埋設深度は、以前は地下50メートルとされていました。それが現在では地下70メートルになり、将来的に処分が実施されるときには地下100メートルぐらいになると考えられています。
これは人間が利用している地下空間の深度が関係しています。最初に中深度処分が検討された20数年前は、地下鉄などの地下空間の利用はせいぜい地下50メートル程度でした。けれども現在では地下70メートルまで利用空間が深くなっています。都市の発展や技術の進歩とともに今後も地下利用は進むと考えられるため、人間が誤って処分場に立ち入る危険を減らすため、より深い深度での処分が検討されているのです。

原型を保ったまま出土した鉄器類

地下処分の優位性
そもそも、なぜ地中深くに埋めるのかというと、古代遺跡から発掘されるいろいろな遺物がヒントになっています。例えば出雲大社から出土した鉄斧は、表面の2〜3ミリしか錆びておらず約730年前の姿をほぼそのまま残しています。
錆びたり、腐食することは化学的には「酸化」することですが、酸化のためには酸素が必要となります。酸素は地下水によって地表から地下へと運ばれますが、地下深くでは微生物の活動などによって酸素の量が徐々に減っていきます。
酸素の少ない環境では長い間腐食が進まないので、地下は腐食が進みにくい環境となるのです。出雲の鉄斧は表面が薄いサビでおおわれていただけで、ほぼ当時と同じ形を残していました。

 
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