情報誌「TOMIC(とおみっく)」

59号 2019年3月発行(2/4)

  • 印刷
  • PDF
 

TOMIC第59号 新しいエネルギー基本計画の考え方〜第5次エネルギー基本計画が目指すもの〜

第5次エネルギー基本計画の特徴

エネルギー情勢は、日本だけではなく、世界的にも変革の時代を迎えています。2015年、温暖化対策に関する国際的な枠組みである気功変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定で、脱炭素化が目標として掲げられ、世界的な技術間競争が激化しており、加えて地政学的リスクは技術の変化によって増幅されています。さらに国家間・企業間のエネルギー競争が本格化しています。こうした情勢変化に対応するために策定されたのが、第5次エネルギー基本計画です。

第4次エネルギー基本計画では2030年への具体的な取組が示されましたが、新たなエネルギー開発などを実現するには長い時間がかかります。少なくとも5年、あるいは数十年と時間がかかります。

実際のエネルギー開発にはこれだけの時間を要するのに、そのビジョンを示すエネルギー基本計画がたった十数年の道のりを提示するだけでいいのか、という問題意識は以前からありました。そこで、第5次エネルギー基本計画では、2030年への取組の強化だけでなく2050年を見据えた柔軟で長期的なビジョンが盛り込まれています。

また今回の計画では、安全最優先(Safety)、資源自給率(Energy security)、環境適合(Environment)、国民負担抑制(Economic efficiency)の3E+Sの原則をさらに発展させた『より高度な3E+S』を目標に掲げていることもポイントです。

2030年のエネルギーミックス実現に向けて

今回のエネルギー基本計画では、前回計画及びその後の長期エネルギー需給見通しで示された「エネルギーミックス」への取組は、着実に進展しているものの、エネルギー自給率は2016年度で8%程度であり、日本のエネルギー安全保障の脆弱性は解消されておらず、まだまだ「道半ば」の状況であると指摘しています。こうした状況の中で、前回計画でのエネルギーミックスの在り方や電源構成比率などの基本的な方針は堅持しつつ、確実な実現に向けてエネルギー電源ごとの施策を深堀りし、対応を強化していくこととしています。そのために、着実に階段を上がっていくような直線的なアプローチ(PDCAサイクル)を行っていきます。

主な取組としては、太陽光や風力などの再生可能エネルギーは「主力電源化を目指す」とされ、そのためには発電コストの低減、不安定な出力をカバーするための「調整力」の確保などを課題解決にあげています。原子力発電については「重要なベースロード電源」と位置づけ安全性が確保できた原子力発電所は順次再稼働させる一方、「原子力の依存度は可能な限り低減させる」との方針を打ち出しています。火力については、高効率化、次世代化を図り低炭素化を進めることとしています。省エネについては、再エネ、原子力、化石燃料に並ぶ第4のエネルギー源と位置付け、徹底的な省エネを進めることとしています。

2030年度の需要構造の見通し

2050年に向けた「エネルギー転換」と「脱炭素化」

一方、日本はパリ協定で「2050年までに温室効果ガスを80%削減する」という高い目標を掲げています。

この目標を達成するためには「エネルギー転換」を図り「脱炭素化」を強力に進めていく必要があります。

2050年という将来は、革新的な技術による大きな変化の可能性がありますが、不確実性も伴います。このため、電源等について具体的な個別の数値目標の設定や単一シナリオでの対応などの方法では、将来の変化に対応できなくなる恐れがあります。例えば原子力のリプレイスの問題でも、リプレイスすべきか、すべきでないか、どの程度リプレイスすべきかといった数値には触れていません。具体的な原子力のリプレイスは、ビジョンに基づいて政策を実行した結果であって、決してビジョンそのものではないからです。具体的な数値や目標を明記してしまうと、その数値や目標の賛成・反対が議論の的になってしまいます。結果を示すことだけがエネルギー基本計画の役割ではないと考えています。そこで、「第5次エネルギー基本計画」では、刻々と変化する状況に適切に対応するために、野心的なシナリオを複数用意した上で、あらゆる選択肢を追求することを方針として掲げています。

 
ページの先頭へ戻る