情報誌「TOMIC(とおみっく)」

61号 2020年3月発行(2/4)

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TOMIC61号 自然災害と電力の安定供給について〜自然災害から電力のレジリエンスを考える〜

今までの災害を教訓としたより効果的な対策とは?

朱牟田善治
朱牟田善治

最近の事例を教訓として、国や電力会社でも災害対策の強化を進めています。

そのひとつとして、鉄塔・電柱の強度などの技術基準の見直しが検討されています。地形によって風速が変わることを考慮して、鉄塔の強度を一律の基準から実際の地形に合わせたものにしたりする予定です。また、地震や集中豪雨による地盤崩落を考慮して、鉄塔などを設置する地盤や基礎の基準を見直す検討も進んでいます。

さらに、倒木等による電柱倒壊の発生を少なくするために、電線の地下埋設も検討されていますが、これにはメリット・デメリットがあります。

電線の地中化は、空中を通る電線(架空線)に比べて台風や竜巻などの自然災害に強いというメリットがありますが、「敷設コストが高い」、「工期が長い」、「断線などの故障時の復旧やメンテナンスに時間とコストがかかる」といった課題があります。現在、国土交通省、経済産業省、電力会社でコスト低減に向けた手法の調査・研究、工期の短縮化、コスト負担のありかたなどについて検討が進められています。

敷設コスト

また、電柱には電線だけでなく、街灯、標識、防犯カメラなど様々なものが設置されていたり、飛来物等が直接、住宅や事業所などの施設にぶつかることを防ぐ防護壁的な役割を果たすこともあります。したがって、さまざまな要素を考え合わせて災害対策を立てていく必要があります。

ライフライン保全対策事業の取組(計画伐採の取組)

@電力のレジリエンス強化

それでも、電力会社がとれる対策には限界があり、被害を完全に防ぐことは困難です。

では、どうすればいいのか。それは電力のレジリエンス、いわゆる「回復力」をつけることです。災害の発生に備え、電力会社の対策を含めたあらゆる対策を組み合わせて、できる限り被害を少なくする、あるいは復旧を早くする「減災」や「予防」の考え方です。

例えば、2019年の台風15号で電柱損壊や復旧を阻む大きな原因となった倒木の問題は、電力会社だけで解決できる問題ではありません。自治体や土地の所有者などとも連携をとり、強風で倒木が予想される場合には樹木の計画的な伐採を行うなど、災害の発生に備える必要があります。また古い家屋や看板などは、修理や撤去などの対策を採るとともに、台風前には家の周辺や近所を片づけて、飛来物を出さないようにすることも大切です。

また、山間部など倒木により停電が長期化した地域では、自立運転機能の利用による太陽光発電やコジェネといった分散型電源が稼働し、家庭の生活維持や企業の事業継続などに貢献した例もあります。このように、分散型エネルギー(再エネ、蓄電池、コジェネ、電動車等)を活用し、自立的に電源を確保することで災害時・緊急時のレジリエンスを向上させる方策も検討すべきです。また、社会的重要施設への自家発電設備等の導入拡大も必要です。

一方、電力会社としては、防災に対する意識づけ、注意喚起といった情報共有、自治体と地域住民との連携面のサポートが重要になります。今後は、デジタル化も進み、ビッグデータやAIなどを使った被害予測技術を駆使した総合的な減災や防災を進めていくことになるでしょう。

 
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