情報誌「TOMIC(とおみっく)」

50号 2014年10月発行(1/4)

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エネルギーが支える明日の社会のために TOMIC50号 将来に繁栄する社会を築く エネルギー選択の岐路に立つ日本

北海道大学大学院工学研究院教授
奈良林 直
(ならばやし ただし)

(株)東芝 原子力技術研究所主査などを経て、北海道大学大学院工学研究院教授に就任。内閣府原子力安全委員会専門委員や原子力安全・保安院、原子力規制委員会の福島の事故の分析検討チームの外部有識者などを歴任。工学博士。東京工業大学大学院理工学研究科原子核工学専攻修士課程修了。専門は原子炉工学。


2013年9月の関西電力(株)大飯原子力発電所4号機の停止以降、国内では原子力発電がすべて止まっている状況が続いています。再稼働が遅々として進まない中、化石エネルギーの輸入増大など、エネルギー構造の変化が、私たちの生活にもじわじわと影響しつつあります。しかし、電力の需要ひっ迫も感じられず、電気料金もそれほど上がっていないことから、近頃では原子力発電が稼働しなくても電気は大丈夫と思う人も増えてきているのではないでしょうか。このような状況を踏まえ、原子力発電の長期停止に伴う日本経済への影響や福島第一事故後の日本における原子力技術の進展などについて、北海道大学大学院工学研究院教授の奈良林直先生にお話をうかがいました。

日本の経済と我々の生活に影を落とす原子力発電の長期停止

〈図-1〉国内の電源別発電比率の変化〈図-2〉原子力発電稼働のずれ込みによる電気料金の影響

現在、日本は国内の原子力発電がすべて止まっているために、年間約3.6兆円の石油や天然ガスなどの化石燃料を余計に輸入しなければならなくなっています。〈図-1〉

しかし、我々国民には、まだその一部しか負担が回ってきていません。

その理由は、現行の電気料金には、原子力発電の再稼働を織り込んでいるためです。電力会社は電気料金改定時に原子力発電の再稼働時期を予め想定し、これを基に電気料金を算定していますが、再稼働の時期が想定よりも大幅にずれ込んでいるため、化石燃料などの燃料費が大幅に増加しています。

今はこの増加分を電力会社が負担していますが、電力会社の多くは赤字経営となっており、原子力発電の停止が長引けば、電気料金はいずれ上げざるを得ない状況にあります。
〈図-2〉

利益率が数%で、電気代が1、2割上がると利益がなくなるといった企業も多くあると聞いており、電気代の上昇は、日本の経済や我々の生活に大きな打撃を与えることになります。

また、電力需給についても、老朽化した火力発電の活用や産業用需要の抑制などでなんとか乗り切っているのが現状で、現在の電力の供給体制は、極めて不安定な状況にあります。

 
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