情報誌「TOMIC(とおみっく)」

50号 2014年10月発行(2/4)

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エネルギーが支える明日の社会のために TOMIC 2014年 第50号 九州エネルギー問題懇話会 将来に繁栄する社会を築く エネルギー選択の岐路に立つ日本

福島第一事故での教訓から日本の原子力発電の安全性が向上

福島第一事故の根本的な原因は、地震によって起こった津波により、非常用ディーゼル発電機や配電盤などに海水が流れ込んで機能が失われ、原子炉の冷却ができなくなったことにあります。そのため、震災以降、原子力発電の安全対策では、特に津波対策に力が入れられました。

〈図-3〉フィルタベント設備概要図

原子力安全・保安院があった当時、私も福島第一事故の技術的知見の検討会において事故分析を行い、見解を文書にまとめて提出しました。そこで、まず最初に提言したのがフィルタベントの設置です。フィルタでこして放射能を1000分の1くらいにするベントが付いていれば、福島のように地元に深刻な影響を及ぼすことはなかったと思います。私の研究室でもモデルを作り、性能実験を行っていますが、とても高性能なものができています。〈図-3〉〈写真〉

フィルタベント研究モデル(北海道大学)フィルタベント研究モデル(北海道大学)

それから次に、万一全電源が喪失した際にも、運転員の意図に従ってバルブを動かせることの重要性をあげました。福島第一では、非常用復水器の隔離弁が勝手に閉まったり、ベントを行う際に必要なバルブの操作が遅れたり、更には原子炉を減圧するための主蒸気逃がし安全弁が開かずに炉心注水がなかなかできなかった、といった事態が発生したからです。

こうした事例も含め、2013年7月に原子力規制委員会によって新たに制定された原子力発電の安全基準には、震災で得た教訓が数多く盛り込まれています。また、新基準には、津波や地震だけでなく、火山の噴火や竜巻といったさまざまな自然災害も想定されており、資機材・予備部品の準備や運転員の訓練などについても盛り込まれています。

現在、各電力会社では、新基準に則した対策を進めており、震災以降、日本の原子力発電所の安全性が飛躍的に高まったことは間違いありません。

世界における原子力発電開発の現状

〈図-4〉主要国の原子力発電の開発状況

福島第一の事故以降、一部の国では原子力政策を見直すところも出てきています。しかし、世界的な流れとしては、コスト面や供給の安定性などから、原子力発電を重視する傾向にあります。現在、世界で建設中のものだけでも、約80基あり、さらに計画中のものが約100基あります。〈図-4〉

こうした中、世界的な原子力発電の動向を窺う端的な例として、中東のサウジアラビアとアラブ首長国連邦が挙げられます。

サウジアラビアは、世界有数の石油埋蔵量を誇る産油国で、世界最大の石油輸出国です。しかし、著しい経済発展の影響から、同国の石油消費量は年率8%程度増加しており、増産に努めてはいるものの、2028年には国内消費量が産油量を上回り、石油の輸出ができなくなるとの予測も出ています。

奈良林教授

こうした状況に備え、同国では将来国民がエネルギーに困ることがないように、2030年までに16基の原子力発電所を作る計画です。現在、国を挙げて原子力に関する知識の蓄積にも励んでおり、北海道大学が学術間交流協定を結ぶ同国のキング・アブドゥルアズィーズ大学で私も何度か講義したことがあります。

また、同じ産油国であるアラブ首長国連邦では、既に原子力発電所の建設を進めており、国内の人材育成のために、元米国原子力規制委員会(NRC)委員長のデール・クライン氏、マサチューセッツ工科大学のカジミ教授、日本からは私が参加して、原子力教育のカリキュラムの策定や教材の準備などを行っています。

このように豊富な資源を有する中東の国でさえ、将来のエネルギー確保に向けて、原子力発電導入の検討を進めています。

 
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