情報誌「TOMIC(とおみっく)」

60号 2019年10月発行(4/4)

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TOMIC60号 各国のエネルギー安全保障への取組みと日本の課題〜これからのエネルギー安全保障を考える〜

(5)中国

中国はアメリカを抜いて世界一のエネルギー消費大国です。1990年代まではエネルギー資源を自給していましたが、エネルギー消費の増加に伴い世界のあらゆるところから輸入しています。その中国では今、急激な変化が起こっています。国内での豊富な石炭の大量消費が、大気汚染による健康被害という深刻な社会問題となり、LNGへの転換や再エネの積極的導入によるエネルギーのクリーン化を強力に推し進めています。中国は再エネについてはすでに世界一の発電国ですし、もうすぐLNGの世界最大の輸入国になるでしょう。

中国がこの先どのような資源を、どれだけ消費するのか、世界の大きな関心事になっています。先に述べた海上交通路での動きを含め、中国とうまくつき合っていくことは日本の重要な課題になると思われます。

中国の一次エネルギー供給

(6)東南アジアなどの新興国

しばらく前まで東南アジアの新興国は日本にとってエネルギー資源の輸入相手国でしたが、最近の急激な経済成長で国内市場が成長した結果、自国のエネルギー資源を国内で消費するだけでなく、不足する資源を国際市場でも買うようになっています。資源獲得競争が激化する中で、日本は今後、こうした新興国とも戦ってエネルギー資源を確保していかねばなりません。そのためには、公正で透明度の高い国際エネルギー市場創設等、日本が資源確保で不利にならないような環境を築くことが大切です。

技術でエネルギー安全保障に貢献する

世界の情勢は自国の努力だけではどうすることもできませんが、自分たちの努力でできることもあります。それは技術によるエネルギー安全保障への貢献です。

例えば、アメリカでは水平掘削や水圧破砕技術が進展したことによってシェール革命が起こりました。このように新たな石油・天然ガス開発の技術が進展することによって、利用できる資源量が拡大していくことになります。

蓄電池技術も開発が期待されています。自動車の電動化(EV)によって、石油の需要を大幅に削減できる可能性があり、そのためにもEV向けの高性能の蓄電池開発が待たれています。

デジタル技術の進展も重要です。再エネは気象条件によって発電量が変動しやすいため、デジタル技術の活用で、需要と供給をより効率的に最適化できる可能性が高いと考えられています。

日本が力を入れている技術のひとつに水素があります。産業用には高温の熱エネルギーが必要となりますが、水素エネルギーはこうした熱需要にも対応でき、低炭素化にも貢献できます。再エネによる水素製造も期待されていますが、現在の課題はコストが高く、経済性に難があることです。

日本には、エネルギー・環境分野での様々な最先端技術があり、国際的なエネルギー安全保障への貢献が期待されています。

これからの日本に必要なこととは?

日本は、今後もさまざまな取組みが必要です。

まず、あらゆる面での省エネの追求です。一般家庭やビルなどの建物断熱は、効果の大きさやポテンシャルから有望といわれています。また、自動車の電動化の一層の進展によっても石油依存を減らすことができます。

供給面では、再エネのコスト引き下げに取組む必要があります。また温暖化対策の観点からも、既存の原子力については安全性を確認した上で活用するのが賢い選択だと考えます。引き続き資源国との友好な関係を維持し化石エネルギーの輸入確保に務めることも重要です。また、近隣他国との物理的なエネルギーインフラの接続も不可能ではないと思います。リスクコントロールが可能な範囲で、選択肢のひとつとして考えていいのではないでしょうか。

最後に考えておきたいのは、相手国にもその国の安全保障があるということです。相手国の都合も考えず、日本のエネルギー安全保障のみ追求してはいけません。お互いが持続可能なレベルで妥協点を見つけることが、回り回って日本のためにもなるのです。世界の国々と対等な立場で、“Win-Win”が永続する関係を築くことが大切です。

 
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