情報誌「TOMIC(とおみっく)」

特別号 2015年10月発行(3/4)

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TOMIC 特別号 江戸時代に学ぶ循環型社会のあり方

太陽とともに暮らした江戸庶民の生活

もうひとつ、照明の話をしましょう。江戸時代の代表的な照明器具は行灯でした。さまざまな種類がありますが、基本的には障子紙で覆った枠の中に小皿を置き、そこへ油を入れて灯芯に火をともして使いました。良質の油は食用にも使える菜種油でしたが、それが買えない貧しい家は魚油(イワシなどの油)を使っていました。魚油は安価ですが、燃えるときに煙と臭いが出るのが欠点でした。

昔の照明というとロウソクを思い浮かべる人も多いでしょうが、当時のロウソクは作るのにたいへんな手間がかかったため、高級品で、庶民が気軽に使えるようなものではありませんでした。そのため遊廓や宴会場など多くの人が集まる場所か、日常生活では裕福な大名や大商人の家でしか使われませんでした。ロウソクは高級品でしたので、燃やすことで溶け流れる「しずく」の部分を再利用するために買い取る「ロウソクの流れ買い」という商売が行われていました。ここでも使い古しを再利用する循環システムができあがっていました。

 

行灯の明るさは、障子紙が新しい状態で灯芯をできるだけ長くしても、灯芯1本でせいぜい60ワット電球の1/50でした。障子紙がすすけたり、灯芯が短くなるとさらに暗くなるので、まばゆい光に慣れた現代人の目からすると、これでは明るさというより暗さと言った方が相応しいかもしれません。

このような暗い照明しかなかった江戸時代は、明かりなしで仕事ができる昼間に働くことが効率的でした。そのため「不定時法」という時刻法が発達しました。現行の時刻法は「定時法」といって、1日を24時間に等分し、それぞれの国で共通の標準時間が決められています。一方、「不定時法」は季節や場所によって時刻が変わる考え方で、それぞれの土地で日の出とともに生活が始まるようになっていました。

具体的には日の出の約30分前が「明六つ」、日没の約30分後が「暮六つ」で、その間を6等分して一刻とします。明六つや暮六つの時刻も、一刻の長さも、季節や場所によって変わっていきます。明六つに起きて準備をすれば、ちょうど日の出の頃から活動を始められ、夕方は日没後しばらくして真っ暗になる暮六つを一日の終わりとしました。

「不定時法」による生活をしていれば、照明に頼る時間を少なくできます。また太陽に合わせた生活は人間の体にも良く、健康的な生活を送ることができます。

 
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