情報誌「TOMIC(とおみっく)」

66号 2022年9月発行(4/5)

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TOMIC第66号 電力小売市場の混乱を考える〜電力小売自由化がもたらした課題と将来展望〜

事業者だけでは解決できない制度の問題

新電力自身の自助努力もさることながら、制度上の手当てが必要な部分も大きいと考えます。自前の発電所を持たない多くの新電力にとっては、電力先物・先渡しなどリスクヘッジのための市場の取引量が十分ではない中では、企業努力にもおのずと限界があるといえるでしょう。国もこうした事態に対処するため、様々な対策を講じてきました。2021年10月と2022年3月、新電力に対するインバランス(※1)負担の還元や資金繰り支援策などの救済措置を公表し、2021年11月には、市場リスクを適切に管理して経営安定化を促すためのリスクマネジメント指針を公表しています。

また、2020年に燃料高騰を経験したイギリスでは、電力事業者の新規参入に財務ストレステスト(※2)を導入し、基準を満たしていなければ参入を認めない方針をとっていて、日本での活用も議論されています。

さらに、電力供給の主な担い手である大手電力等は、先ほど述べたとおりその供給力が減少しており、今後の安定供給を支えていくには、現状は大手電力等が担っている燃料調達や発電設備維持増強に対する一定の負担を新電力にも求めるなどのルールづくりをしていくべきではないでしょうか。

重要な社会インフラである電力は、これまで公益事業として扱われ、人々の生活を守るためのさまざまな規制が設けられていました。現在は全面自由化の中で、事業者が自由に競争できるようになった反面、公共性の高い事業の性格は残っています。この両面性が市場に混乱を招く一因でもありますが、現在は過渡期でもあり、いずれ制度が整備されていくと思われます。自由競争を原則としつつ、必要な箇所は公的な関与も考えるなど、要所を押さえていくことが重要です。

その際、例えば、銀行を参考にするのもよいかもしれません。銀行は民間企業であり、利率やサービス内容で自由に競争していますが、万一のときにはペイオフなど預金を一定額まで保護されるセーフティネットが整備されています。

(※1)インバランス制度:電気は、その供給に支障を来たさないように、需要量と供給量を一致させる必要がある。そのため小売電気事業者は、予め需要量と調達量の計画値を一般送配電事業者へ提出する。計画値と実績値で差異が生じた場合には、一般送配電事業者による電力量の補填や余剰となった電力量の買取が発生するため、料金を後日精算する制度。

(※2)財務ストレステスト:企業経営に係る内的外的な負荷(ストレス)にどこまで耐えられるかを検証するのがストレステストで、それを財務面から検証するもの。

 
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