情報誌「TOMIC(とおみっく)」

67号 2023年3月発行(3/5)

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TOMIC第67号 さらなる活用に向けた原子力政策の新たな方向性〜原子力発電所の運転期間の延長に向けて〜

原子力活用のために取り組むべき短期的な課題

短期的課題としては「再稼働への総力結集」と「既設炉の最大限活用」があります。

「再稼働への総力結集」としては、福島第一原子力発電所での事故を教訓に安全向上に取り組んでいく技術・人材の維持・強化、必要なリソースの確保など関係者がしっかりと再稼働に取り組むことが大切です。

「既設炉の最大限活用」では、運転期間の取扱いに関する仕組みの整備と、設備利用率の向上が必要ですが、前者については次のとおりです。

 

@原子力発電所の運転期間に関する国内の状況

もともと日本には原子力発電所の運転期間に関する定めはありませんでしたが、福島第一原子力発電所の事故を契機に、法律(原子炉等規制法)が改正されて運転期間は40年と明記されました。ただし、原子力規制委員会の認可を受ければ20年を超えない範囲で1回に限り延長できます。この40年という期間は安全性を基に決められたものではなく、適切な保守管理を行えば長期間運転した発電所でも高い安全性を確保することができます。すでに60年運転が認可された原子力発電所(関西電力株浜3号機、高浜1・2号機等)もあり、九州電力鰍ナも2022年10月、川内1・2号機の延長を申請し、現在国の審査が行われています。

原子力事業者は運転期間延長申請にあたって、取り替えが困難な原子炉容器や原子炉格納容器、コンクリート構造物の劣化状況を把握し、評価したうえで運転開始後60年時点においても問題ないことを確認する必要があります。この評価結果を踏まえて、運転開始40年以降20年間に実施すべき施設管理の方針を定める必要があります。

特別点検対象部位

A原子力発電所の運転期間に関する海外の状況

海外に目を移すと、アメリカは運転期間が40年と定まっていますが、運転延長の申請が認められれば20年間の延長が可能で、申請回数には上限がありません。すでに運転92基中50基が40年を超える運転を行い、6基が80年運転の認可を取得しています。

また、イギリス、フランスでは一律の上限は設けず、10年ごとに義務づけられた安全審査で安全性が確認された原子炉について運転を認めています。フランスでは、運転56基中20基が40年を超える運転を行っています。

各国における原子力発電所の新規建設と運転期間の延長に向けた動き

B運転期間延長に関する政策見直しの状況

経済産業省では運転期間の延長に向けて検討を進めていましたが、現行の「40年+20年」をベースに事業者が予見し難い理由による停止期間(法制度の変更、行政指導、裁判所による仮処分命令など)を運転期間から除外し、60年超運転を可能とする案を策定しました。[運転期間40年+延長期間20年(1回限り)+α(予見し難い停止期間)]

また、原子力規制委員会でも運転開始30年後の設備の劣化状況の審査や10年ごとの審査など、延長を認可する新たな制度を検討しています。

今後、関連する法律が改正される予定です(2023年2月28日閣議決定済)。

C設備利用率(※)の向上

原子力発電所の設備利用率は、東日本大震災以前の1981〜2010年度は約73%でしたが、震災を契機に大きく落ち込み、震災後再稼働した原子力発電所の設備利用率は、2020年に約50%でした。アメリカの設備利用率は1970年代には日本より低い状態でしたが、1990年代に日本を抜き、直近では90%前後となっています。

対応策として、定期検査の効率的実施、運転サイクルの長期化があげられます。現在の定期検査に要する期間は平均約90日ですが、安全性を確保しつつ、効率的に検査する方策を検討する必要があります。また、定期検査の間隔は法令上で3つの区分(13カ月以内、18カ月以内、24カ月以内)が規定されていますが、国内ではすべての炉が13カ月以内に区分されていて、より柔軟な対応を考えることも必要でしょう。

このように既設原子力発電所の有効活用の余地はまだ残されているといえます。

(※)発電所の稼働状況を表す指標 年間の設備利用率(%)=実際にその1年間で発生した発電電力量(kWh)÷[定格電気出力(kW)×365日×24時間]×100。

 
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